COMPACT DISCO SOUNDSYSTEM

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About CDS

Text by 大塚BAR地底 店主 eno

Compact Disco Soundsystem(以下CDS)はVan Burkleo氏が2013年より手掛ける日本国産ハンドメイドDJミキサー。大塚BAR地底では2chモデル“DS-223FW”を据え置き機として使用している。

DJミキサーに求められる事は大きく3つある。機能性、操作性、そして音質だ。

BAR地底の音響機器はいわゆる「ハイエンド」や「ピュアオーディオ」と呼ばれる類のもので、スピーカーにはその代表格と言える、イギリスB&W社の800番台シリーズ(巻貝のような形で有名な同社のNautilusを継承したフラッグシップモデル)の802D、パワーアンプには昨今ではLexusにも搭載されていることでも知られる米国Mark Levinson社のNo.383Lを使用している。

この組み合わせからオーディオファンであれば察しがつくと思うが、筆者は味付けのないフラットな音が好みである。しかし「味付けのないフラットな音」とはすなわち「音源に刻まれた音を忠実に再現する」ということであり、音楽の再生においてこれほど難しい事はないと言える。

どのような音源でも音は電気信号として各機器に送られる。各機器にはそれぞれ役割があり、電気信号を増幅させるもの、電気信号を制限するもの、電気信号の性質を変えるものなど様々で、いずれにせよ、最終的な到達地点であるスピーカーに伝達するまでに、電気信号に対してなんらかの変化を起こさせる機器である。

そして、そういった機器を経由することによって、音源本来の電気信号は、その機器の特性(内部的な要因、外部的な要因)によって意図しない変化も加えられてしまう。それによって機器による音質の変化が起こるのだ。

「音源に刻まれた音を忠実に再現する」というのは、この意図しない信号の変化を極力抑えること、言い換えればマイナスをゼロにする作業に他ならない。

多くのDJミキサーは、上述の役割のほぼ全てを行なっている機器であり、電気信号を聴き手の意図に沿ってコントロールする、ピュアオーディオの世界で言うところの「コントロールアンプ」や「プリアンプ」に該当する機器である。

さらに、複数の音源をミックスさせたり、特定の帯域を減衰/強調させたり(イコライザー, アイソレーター)、レコードの場合では針が拾った微信号を増幅させるフォノアンプの機能なども備えている。

そういった多くの機能を1つの機器で行う場合、その内部構造は大変複雑なものになる。それぞれの電気信号変化機能が、別の電気信号変化機能に干渉するなどといった「事故」も起こりやすい。

ここまで書けば、DJミキサーがいかに音質に影響を与える機器なのかがなんとなく理解していただけたと思う。冒頭に述べたDJミキサーに求められる事として、「音質」は絶対に無視できないファクターなのである。

CDSの話に戻るが、筆者は「音源に刻まれた音を忠実に再現する」という考えのもと、複数のDJミキサーを音質面に特化して導入検討した。多くのDJブースで採用されているPioneer、Allen&Heath、ロータリーミキサーでもUrei、Bozak、E&Sなどの有名どころは一通り試聴をした。それぞれのミキサーに「味」があり、このタイプの音楽は再現性が高いが、このタイプは再現性が低い、などといった主観も含めて、ミキサー選びは難航したと言える。

その中でひときわ、どのタイプの音楽でもこれといった「味」がなかったのがCDSだった。

これは言い方を変えれば、「個性のないつまらない音」なのかもしれないが、筆者にとっては

「なんの変化もさせず音源から受け取った電気信号をそっくりそのままパワーアンプへ届けている」という感覚を得て驚愕した。ここまで「マイナスを産まない」DJミキサーが存在するのかと驚いた。

B&W 802Dという、解像度が高く、表現力に優れ、なによりフラットな音質であるスピーカーを鳴らす上で、音源の意図とは外れた余計な電気信号を送りたくない筆者にとって、これが理想だった。

Van Burkleo氏とは実際に、手元にあったE&SとCDSを聴き比べしたが、その違いは歴然であった。E&Sは言わば丸みのある暖かい音質で、聞き心地という意味では非常に優れたミキサーだった。しかしそれはあくまで中音域の話で、B&Wに搭載されているツイーターもツインウーファーも、十分に鳴っているという感覚は得られなかった。

人間の可聴領域において聴きやすい帯域である中音域が心地良いことは大変重要ではあるが、音源に刻まれたものはそれだけではないのだ。ハウスミュージックが分かりやすい例かもしれないが、ダンスミュージックの多くはハットとキックで構成される。すなわち本来聴き取りにくい帯域である、高音と低音で構成される音楽である。もちろんダンスミュージック以外でも、高音、低音は至る所に存在する。

ミキサーをCDSに変更するとまるで別世界だった。高音域を担当するツイーター、中音域を担当するスコーカー、低音域を担当するウーファーそれぞれが活き活きと音を奏でており、スピーカーが持つ本来のポテンシャルが十分に発揮されているような鳴りを見せたのだ。音質についてよく「皮を一枚剥いだような〜」と表現されるが、まさにそれだった。いや三枚くらい剥いだような。素材そのものの味がするのだ。

これが実現できるのは、「マイナス」を起こさないための、Van Burkleo氏の設計に対する誠実さゆえである。ミキサー内部の構造もそうだが、電源ボックスを別付けにするなどといったことも、ミキサー本体のコンパクト化だけでなく、ノイズの混入といった外部的なマイナス要因に備えての施策である。

ここまでCDSの音質について述べたわけだが、要するにCDSはDJミキサーという以前に、筆者のようなタイプのオーディオラバーにとって、大変優秀なプリアンプであることがご理解いただけたのではないだろうか。

ここまで音質の話をしたが、CDSにはもう1つ大きな特徴がある。それは名前にもなっている「Compact」についてだ。

音響機器を広々と置く事が難しい日本の住宅環境において、小さいことはそれだけでありがたいことなのだが、そのぶん内部の構造設計は精密さを要求する。搭載するパーツも吟味する必要がある。これらは全て音質を損なわない上で行うと考えると、小型化は決して簡単ではない、経験とセンスを必要とする職人芸であることがよく分かると思う。

そしてCDSはどのモデルにもキャリーケースが付属する(一部別売り)。ミキサーを持ち運ぶ機会がどれだけあるのか定かではないが、DJが「自分が使いやすいコントローラー」としてミキサーを各々の現場に持ち込むことは想定できる。だが筆者はそれ以上に、このミキサーを持ち運んで「どの現場でも良い音を鳴らそう」という、DJに対する啓蒙に近いようなVan Burkleo氏の思想を感じずにはいられないのだ。

これはクラブシーンに身を置きながら、ピュアオーディオの思想をリスペクトする氏ならではの発想であるとも言える。

有名なロータリーミキサーの多くが公式なサポートを終了している中、国内で現行サポートしていることも、音響機器が商売道具である店にとってはもちろん、ある程度の高額な買い物をする消費者にとってはこの上ない安心感だ。

CDSは現在、価格帯も含めて様々なモデルがラインアップされている。

CDSを体験したければ、まずは神田にあるcafe&bar Extraweltに行くことをおすすめする。なぜならばVan Burkleo氏がそこで働いているからだ。毎日DJの現場で様々なプレイを見聴きし、様々な音楽を浴びている人間が作っているDJミキサー、ハズレなわけがないでしょう。

その次におすすめするのは僭越ながら大塚BAR地底である。ピュアオーディオ群の中で悠々と息づくCDSの姿が確認できるはずだ。

DJだけではなくオーディオファンも含めた全てのミュージックラバーが、ここまで美しい思想と誠実さを持った音響メーカーが日本にあることを知って欲しいと思う。

Theo Parrish 2015/DS-223F